【「かぐや」の成果 ~ お知らせ 2013.5月 】





【プラズマ観測装置(PACE)により得られた地球磁気圏内月面夜側の静電ポテンシャル】


    本内容は、2013年5月7日付で科学雑誌「Advances in Space Research」に掲載された論文「Night side lunar surface potential in the Earth’s magnetosphere (Yoshifumi Saito et al.)」に関するものです。


    本研究では「かぐや」に搭載された「プラズマ観測装置(PACE)」の観測データにより、初めて月の夜側領域で観測データのみから衛星自体の静電ポテンシャルと、月表面の静電ポテンシャルの両方を決定する事ができました。

    月は1ヶ月に3ー4日の間、地球の磁気圏内に滞在します。地球磁気圏の尾部領域には、暖かいプラズマ(※)の存在するプラズマシートと呼ばれる領域が赤道付近にあり、プラズマシートを挟んで南北に希薄で冷たいプラズマの存在するローブと呼ばれる領域があります。月が地球磁気圏中に滞在する間、多くの時間は磁気圏尾部のローブ領域に滞在しますが、磁気圏尾部がフラッピングと呼ばれる運動で月に対して移動することから、頻繁にプラズマシート領域にも出入りします。

    「かぐや」が月の昼側に滞在していた時には、プラズマシートとローブの間の遷移領域では地球から磁気圏尾部に向かうローブ領域の冷たいイオンや、プラズマシートーローブ境界における冷たいイオンの加速、プラズマシートの暖かいイオンなどが観測されました。これらは過去に地球磁気圏尾部の月軌道付近で観測を行った宇宙研のGEOTAIL衛星が観測したプラズマのデータとよく一致しています。

    しかしながら、「かぐや」が月の夜側に滞在していた時には、「かぐや」が観測したデータは過去に地球磁気圏尾部で得られた観測データと異なり、月の夜側ではローブ領域の冷たいイオンは月に遮蔽されて観測されないということが初めて明らかになりました(図(左))。そのかわり、衛星自体の静電ポテンシャルによって加速されたイオンと、衛星と月面の間のポテンシャル差によって加速された電子が同時に観測されることのあることもわかりました。これらの加速されたイオンと電子のデータを用いて、初めて月の夜側領域で観測データのみから衛星自体の静電ポテンシャルと、月表面の静電ポテンシャルの両方を同時に決定する事ができました(図(右))。

    これらは、将来人類が月面で活動する際に重要となる月表面の静電ポテンシャルについての新しい結果です。


    (※)プラズマとは、固体・液体・気体に続く物質の第四の状態の名称です。気体が高温になると、気体を構成する分子が電離し、陽イオンと電子に別れて自由に運動しているプラズマの状態になります。太陽系の物質の99%はプラズマであると考えられているため、プラズマの振る舞いを調べることは、太陽系の科学研究において重要な位置付けを占めています。



図 (左)月夜側で観測されたイオンと電子のE-t(エネルギー・時間) 図 (右)観測データから得られた月面と衛星の静電ポテンシャル


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